研究内容 -Research-

1. 円偏波マイクロ波計測技術の開発とそれを応用した電子・スピンの研究

1-1. 計測技術の開発

 マイクロ波の円偏波自由度は、衛生放送や電波天文学などの一部の分野では利用されているものの、計測技術としては一般的ではありません。そこで、円偏波マイクロ波の右・左回りの自由度を利用した物性計測技術の開発を行っています。現在までに、円偏波空洞共振器法、円偏波交差マイクロストリップ法と名付けた2種類の手法を開発しており、これらを応用した電子・スピン物性の研究も行ってます。

円偏波空洞共振器法

 空洞共振器のマイクロ波共振モードは、誘電材料の評価や電子スピン共鳴(ESR)の測定に利用されるなど、物性測定に幅広く利用されています。しかし、これらの用途で用いるのは直線偏波のモードがほとんどです。そこで、円筒空洞共振器の縮退モード(TE11n)に着目し、それらを選択的に励振する技術を考案しました。本手法は、円偏波モード(右・左回り)の共振周波数と半値幅、合計4自由度の情報から、応答テンソルの対角項と非対角項の両方を測定できるのが大きな特徴です(通常の方法では対角項のみ)。従来の2倍の情報が得られる本手法は、電子・スピンのダイナミクスを解明するための強力なプローブになると考えています。

関連文献
Cavity resonator for circularly polarized microwave irradiation mounted on a cryostat
T. Arakawa, S. Norimoto, S. Iwakiri, T. Asano, and Y. Niimi, Rev. Sci. Instrum90, 084707 (2019).
円偏波交差マイクロストリップ法

 円偏波空洞共振器法では、共振器と励振ポートを弱く結合させ、共振モードのQ値を高く保って使用します。このようなアプローチは定量性の面でメリットがある一方、周波数依存性を連続的に取得することは出来ません。そこで、円偏波分解でマイクロ波の吸収スペクトルを広帯域に取得できる測定法を開発しました。

関連文献
Magnetic polarization selective spectroscopy of magnetic thin films probed by wideband crossed microstrip circuit in GHz regime
Tomonori Arakawa, Yoichi Shiota, Keisuke Yamada, Teruo Ono, Seitaro Kon, Rev. Sci. Instrum. 93, 013901 (2022).

1-2. 電子・スピン物性の研究

 上記の円偏波分解の計測手法を応用すると、電子・スピンのダイナミクスの新たな情報を得たり、より高度な制御を実現できたりする可能性があります。そこで、我々はこの手法のポテンシャルを引き出すべく、磁性体の磁気共鳴に関する研究や2次元電子系の電子ダイナミクスに関する研究を行っています。

量子ホール状態にある2次元電子系の電子ダイナミクスの研究

 円偏波空洞共振器法を用いてGaAs/AlGaAs界面に形成された2次元電子系の複素電導度の全成分(縦・ホール成分の実・虚部)を精密に測定することに世界で初めて成功しました。また、量子ホール状態の電子ダイナミクスに関して新たな発見がありました。

関連文献
Microwave Dynamical Conductivity in the Quantum Hall Regime
Tomonori Arakawa, Takashi Oka, Seitaro Kon, Yasuhiro Niimi
Physical Review Letters 129, 046801 (2022).

2. マイクロ波計測技術に関する応用研究

 2021年度に現所属(電磁気計測研究グループ)に異動して以降、応用に直結する研究にも関わらしてもらってます。特に高周波の計測技術を生かし、次世代移動通信技術や量子コンピュータに資する研究を行っています。

関連文献
次世代デバイス開発に資する計測技術の高周波化と高精度化の研究
荒川智紀、産総研計量標準報告, vol.11, No. 1, pp.53-67, 2023.

3. 雑音計測技術の開発とそれを応用した電子・スピン物性の研究

 修士課程以降、長きにわたり関わってきた研究です。試料の性質に合わせて測定法を開発し、いろんな材料系・デバイスを対象として研究してきました。